
「この書類、いつまで保存しておけばいいのだろう…」
「もし税務調査で指摘されたら困るから、そのまま全部保管しておこう」
企業活動が行われる限り、避けて通れないのが書類管理の悩み。会計帳簿から出勤簿まで様々な書類が法令により保存期間が定められており、保存義務に違反すると青色申告の承認取り消しなどの罰則が設けられている場合がほとんどです。
また、契約や労働においてのトラブルが発生した際には保管していた書類が解決へと導いてくれることも多く、適切な書類の保管保存はリスクマネジメントの面でも必須。ただし、同時につきまとうのが保管期限の管理です。保管期限の過ぎていないものを処分してしまうリスク、保管期限の過ぎたものをいつまでも保持していては管理コストも雪だるま式に増えていきます。
2024年の1月からは電子帳簿保存法改正により、電子取引データの電子保存が完全義務化されました。取引先との間においてやり取りされる各種取引書類は、紙とデータの授受方法により保存形態が異なることになり「紙と電子の併存管理」が喫緊の課題となっている企業は多いでしょう。
本記事では、会社法や税法で定められた複雑な保存期間を整理し、実務で迷わないための「判断基準」を明確に示します。最後までお読みいただくことで、リスクを最小限に抑えつつ、業務効率を最大化する文書管理のヒントが見つかるはずです。
INDEX
法定保存期間と企業ルール
企業の法定保存文書には保存期間が定められていますが、期間を判断するベースとなるのが根拠法になります。保存期間の長いものが多い会社法から利用目的達成後すぐに廃棄しなければならない個人情報保護法までの各種法令で保存期間が細かく定められています。
根拠法以外にも業界ごとに遵守すべき法令があり、医療業界であればカルテなど、運輸業界であれば運行指示書などといった文書の保管が義務付けられています。
同時に法令だけではなく「文書管理台帳」で管理するなど企業ごとのルールもあります。法定保存期間をどのように守るのか、保存期間が過ぎた文書はどのように処理するのか、文書管理台帳などを下敷きとした実務面でのルールも整えることが必要になってきます。
それぞれの法定保存文書の保存期間は「起算日」からカウントされます。この起算日を間違えてしまうと適切な保存が望めなくなってしまうので留意してください。
法定保存期間一覧:会社法・税法・労務の重要書類
ここでは実務で特に携わる機会の多い文書を保存期間ごとに整理しました。
法令によって保存期間が異なるものもありますが長いほうの保存期間を採用することでリスクを避けることが可能です。
永久保存
普段はなかなか触れる機会がない「原始定款」は会社成立時に発起人全員の合意のみにより成立する極めて重要な書類です。法人口座開設などで必要となるため大事に保存するべきでしょう。その他にも株式会社であるならば株主名簿、会社の持つ不動産に関する登記なども法定保存文書ではないものの失うと会社に不利益をもたらすものが多いです。間違えて破棄や流出などしないように厳重に管理する必要があります。
- 1. 原始定款、定款変更履歴
- 2. 株主名簿、新株予約権原簿、社債原簿、株券喪失登録簿
- 3. 登記事項証明書、法人印鑑証明書
- 4. 不動産登記簿、重要契約書の一部
- 5. 官公署への提出書類や、許認可・通達に関する重要書類
- 6. 訴訟に関する文書
- 7. 重要な権利・財産の得喪に関する文書
- 8. 知的財産の所有権に関する文書(特許証、商標登録証、登録料受領証など)
- 9. 製品の開発・設計に関する文書(開発仕様書、設計図、技術資料など)
- 10. 効力の永続する契約書(長期取引契約、無期限契約など)
- 11. 会社の沿革や事業内容を示す社内報・社報・記念刊行物
- 12. 重要な人事に関する書類(役員人事、懲戒・表彰記録など)
- 13. 労働組合との協定書、団体交渉記録
10年
会社の根幹に関わる会社法に関連する書類は、10年間と長期間の保存が義務付けられています。
【会社法・コーポレートガバナンス関連】
- 1. 株主総会議事録(本店分、支店は謄本5年保存)【起算:株主総会の開催日から】
- 2. 取締役会議事録【起算:取締役会の開催日から】
- 3. 監査役会議事録【起算:監査役会の開催日から】
- 4. 指名委員会議事録【起算:委員会の開催日から】
- 5. 会計帳簿および事業に関する重要書類(総勘定元帳、各種補助簿、株式申込簿、株式割当簿、株式台帳、株式名義書換簿、配当簿、印鑑簿など)【起算:帳簿閉鎖の日から】
- 6. 計算書類”貸借対照表や損益計算書”、附属明細書【起算:作成した日から】
【税務・会計関連】
- 1. 法人税申告書およびその添付書類【起算:法定申告期限の翌日から】
※税法上は7年ですが、青色申告の欠損金繰越控除を受ける場合は10年保存が必要です。
- 2. 会計帳簿の証憑書類【起算:法定申告期限の翌日から】
※領収書、請求書、契約書、納品書等。会社法上「事業に関する重要書類」に該当する場合、10年の保存義務が生じます。
7年
税法【法人税法・消費税法など】および所得税法に関連する書類は7年保存が原則ですが上記のように10年保存が推奨されているものも。また、2023年10月から開始されたインボイス制度に関連する書類もこの区分に含まれます。
【税務・会計関連】
- 1. 帳簿(仕訳帳、総勘定元帳、現金出納帳、固定資産台帳等)【起算:法人税申告期限の翌日から】※会社法上は10年ですが、税法上の規定は7年です。
- 2. 課税仕入等の税額の控除に係る帳簿、注文書・契約書・請求書・納品書・棚卸表などの書類【起算:法人税申告期限の翌日から】※6年目以降は、帳簿または請求書等のいずれかを保存でも可。
- 3. 貸借対照表及び損益計算書、決算に関して作成されたその他の書類【起算:法人税申告期限の翌日から】
- 4. 現金の収受、払出、預貯金の預入・引出に際して作成された証憑書類(領収書、請求書、小切手・手形控、振込通知書、預金通帳、借用証等)【起算:法人税申告期限の翌日から】
- 5. 有価証券の取引に際して作成された書類(有価証券受渡計算書、有価証券預り証、売買報告書、社債申込書など)【起算:事業年度の確定申告書の提出期限の翌日から】
- 6. 取引に関する電子データ(契約書や注文書など)【起算:取引が属する事業年度の確定申告書の提出期限の翌日から】
- 7. 適格請求書(インボイス)の写しおよび受領した適格請求書【起算:法人税申告期限の翌日から】※発行側・受領側の双方が7年間保存する必要があります。
【人事・労務関連【所得税法】】
- 1. 給与所得者の扶養控除等(異動)申告書【起算:提出期限の属する年の翌年1月10日の翌日から】
- 2. 源泉徴収簿もしくは源泉徴収簿を兼ねた賃金台帳【起算:提出期限の属する年の翌年1月10日の翌日から】
- 3. 従たる給与についての扶養控除等申告書【起算:提出期限の属する年の翌年1月10日の翌日から】
- 4. 配偶者控除等申告書【起算:提出期限の属する年の翌年1月10日の翌日から】
- 5. 保険料控除申告書【起算:提出期限の属する年の翌年1月10日の翌日から】
- 6. 住宅借入金等特別控除申告書【起算:提出期限の属する年の翌年1月10日の翌日から】
- 7. 給与受領者の退職所得のみなし申告書【起算:提出期限の属する年の翌年1月10日の翌日から】
- 8. 納税証明書交付請求書および発行件数表【起算:当該文書の属する会計年度の翌年度4月1日から】
- 9. 申請書・届出書等関係書類(青色申告承認申請書、納税管理人届出書等)【起算:承認の効力が消滅した日等の属する事務年度の翌事務年度7月1日から】
- 10. 加算税賦課決定決議書・更正決定通知書【起算:当該文書の属する事務年度の翌事務年度7月1日から】
- 11. 適格請求書発行事業者の登録等関係書類【起算:登録の効力が消滅した日等の属する事務年度の翌事務年度7月1日から】
- 12. 電子取引データ(電子帳簿保存法に基づくもの)【起算:法人税申告期限の翌日から】
【実務上のアドバイス】
起算日の違いに注意が必要です。税務関連は「申告期限の翌日」からですが、給与所得者の控除申告書などは「1月10日」を起点とするなど、細かな違いがあります。
会社法では「帳簿や重要書類」を10年保存と定めていること、青色申告で赤字【欠損金】が発生した年度の書類は税法上も10年間の保存が必要になるため、経理書類一式は税法では7年ですが「一律10年」として管理した方が、部門間の混乱や廃棄ミスを防止できます。
5年
企業が「5年間」保存すべき文書は、主に労働基準法などの労務関連、および産業安全保健法などの衛生管理関連が中心となります。近年の労働基準法等の改正により、3年から5年と期間が延びているものもあるため「一律5年」など注意が必要です。
【労務・人事関連】
- 1. 労働者名簿【起算:従業員の死亡、退職または解雇の日から】
- 2. 賃金台帳【起算:最後に記入した日から】
- 3. 雇入れ、解雇、退職に関する書類【起算:退職または解雇の日から】
- 4. 出勤簿、タイムカード等の勤務記録【起算:最後の記録があった日から】
- 5. 労災保険に関する書類【起算:完結の日から】
- 6. 雇用保険に関する書類【起算:完結の日から】
【安全衛生・健康管理関連】
- 1. 定期健康診断結果報告書・個人票【起算:診断を実施した日から】
- 2. ストレスチェックの結果記録【起算:検査を実施した日から】
- 3. 産業医による面接指導の記録【起算:面接指導を実施した日から】
【会計・事務運営関連【国税庁標準文書保存期間基準および一般実務】
- 1. 一般事務整理簿(延納・物納・納税猶予事務整理簿等)【起算:当該文書の属する事務年度の翌事務年度7月1日から】
- 2. 契約決議書および付随書類(工事請負、物品購入)【起算:契約が終了した日の属する会計年度の翌年度4月1日から】
- 3. 会計検査院の検査を受けた際の回答・資料【起算:検査が終了した日の属する会計年度の翌年度4月1日から】
- 4. 現金亡失報告書、非行事件関係書類【起算:当該事案が完結した日の属する会計年度の翌年度4月1日から】
- 5. 資産の取得、管理および処分に関する書類(軽微なもの)【起算:処分等が完了した日の属する会計年度の翌年度4月1日から】
【実務上のアドバイス】
労働基準法改正により、賃金請求権の消滅時効に合わせて保存期間が5年に延長されました。現在は経過措置として「3年」でも法的には認められますが、トラブル防止の観点から安全のために「5年」保存としたほうが良いでしょう。
健診結果は「機密性の高い個人情報」に該当します。5年間の保存義務がある一方で、期間を過ぎた後は速やか、かつ確実に裁断・溶解廃棄を行う体制が求められます。
労働者名簿や健康管理記録は「退職日」が起点となります。在職期間中はずっと保管が必要になるため、在職者と退職者を分けて管理するのが効率的です。
3年・1年
法定保存期間が比較的短いものとして労務や庶務関連の文書があります。文書数も多く、文書作成から廃棄までのサイクルが早いため、管理の工夫も必要になります。
【労務・専門業務関連】
- 1. 派遣労働者管理台帳【起算:派遣期間が終了した日から】
- 2. 労働保険料の徴収・納付に関する書類【起算:徴収・納付が完結した日から】
- 3. 特定商取引法に基づく書面(契約書面等の控え)【起算:契約終了の日から】
- 4. 下請法に関連する書類(注文書・検収書・支払記録等の控え)【起算:下請代金の支払が完了した日から】※法定2年の保存義務がありますが実務上では3年以上推奨
- 5. 安全衛生委員会(または申告委員)】の議事録【起算:開催の日から】
- 6. 内部通報(ヘルプライン)の受付・対応記録【起算:事案の調査・対応が完結した日から】※公益通報者保護法に関連し、3~5年の保存が一般的です。
【一般事務・庶務関連】
- 1. 不採用となった求職者の履歴書・応募書類【起算:選考が終了した日から】※法律上の義務ではありませんが、個人情報保護の観点から1年程度で廃棄する実務が一般的です。
- 2. 入退館記録・受付票【起算:記録された日の翌日から】
- 3. 郵便物受取簿・発送記録【起算:記録された日の翌日から】
- 4. 労働者派遣法に基づく「派遣先への通知書」【起算:派遣期間が終了した日から】
- 5. 従業員の身元保証書【起算:身元保証契約が更新または終了した日から】※有効期限が1年更新の場合。基本的には有効期間中+1年程度の保管が一般的です。
- 6. 仮払金・仮受金の精算書(軽微なもの)【起算:精算が完了した日の属する会計年度の翌年度4月1日から】
【実務上のアドバイス】
労働基準法改正により、出勤簿や賃金台帳などの重要書類は「5年(当面の間は3年)」に延長されました。そのため、かつて3年保存だった主要な労務書類の多くは、現在「5年保存」として扱うのが安全です。
また、1年や3年といった短期間の文書は、油断するとオフィスの机周りに溜まりがちです。「1年保存」の文書については、年度末などに一括して廃棄するサイクルをルーチン化することをお勧めします。
実務の壁:なぜ「ルール通り」に進まないのか?その解決策
期間を知っていても、実行に移すのが難しいのが文書管理です。現場では以下のような課題が頻発します。
課題1:保存期間の管理
法令ごとに異なる複雑な保存期間と起算日を、膨大な書類一通ごとに手動で把握・管理し続けるのは工数負荷が大きく、管理漏れ【誤廃棄・過剰保管】のリスクが極めて高くなります。
解決策:書類を個別に管理せず、保存年限(10年・7年・5年等)ごとに「箱単位」でグループ化して保管。外部倉庫の期限管理システムやアラート機能を活用すればヒューマンエラーを防ぎやすくなります。
課題2:物理スペースの限界
都心部のオフィス賃料を考えると、書類のためにスペースを割くのは「高価な倉庫」を借りているのと同じです。
解決策:頻度の低い「保存文書」は外部の倉庫サービスへ。セキュリティが担保された環境に移すことで、執務スペースを有効活用できます。
課題3:電子化(DX)への移行コスト
「紙をスキャンする暇がない」という声は多いものです。
解決策:過去分をすべて電子化するのは膨大な時間がかかります。「ここから先は電子」という基準日を設け、古いものはプロの電子化代行サービスをスポット利用するのが最もコストパフォーマンスが高くなります。
文書管理リスク:不備がもたらす致命的なダメージとは
「たかが紙一枚」という油断が、企業の存続を揺るがす事態に発展することもあります。
1. コンプライアンス違反・罰則
税務調査や監査の際、本来あるべき書類がないだけで「隠蔽」や「管理不備」とみなされ、重加算税の対象や社会的信用の失墜を招きます。
2. 情報漏えいリスク
管理ルールが曖昧だと、廃棄すべき書類が放置され、盗難や紛失のリスクが高まります。損害賠償額が数億円に達するケースも珍しくありません。
3. 災害リスク
オフィスでの集中管理は、火災や地震による「全損」のリスクと隣り合わせです。分散保管やバックアップ(電子化)は、BCP(事業継続計画)の観点からも不可欠です。
まとめ
適切な文書管理は、企業の「守り」を固め、「攻め」を加速させる投資です。
法的な保存期間を正しく理解し、運用ルールをシステム化することで、探し物の時間は減り、オフィスは広くなり、万が一の事態にも動じない強固なガバナンスが手に入ります。
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