
コロナ禍を契機に広がったオフィス縮小や在宅勤務。さらに進む人手不足と人材の流動化。こうした環境変化の中で、企業の文書管理のあり方が大きく見直されている。
単なる保管コスト削減ではなく、業務効率化やリスク対策、さらには情報資産の活用まで視野に入れた「攻めの文書管理」とは何か。
外注検討の背景と判断ポイントを、作家・経営コンサルタントで流創株式会社代表の前田康二郎氏に聞いた。
コロナ禍を契機としたオフィス縮小や在宅勤務の定着を背景に、企業の文書保管のあり方が見直されている。とくに都市部では賃料高騰もあり、保管スペースを外部化することが合理的な経営判断となりつつある。さらに人手不足とバックオフィス人材の流動化が進む中、従来の社内完結型の書類管理は限界に近づいている。外注化や電子化は、単なるコスト削減策ではなく、属人化リスクの解消や引き継ぎ負担の軽減につながる仕組みづくりの一環だ。文書を情報資産として活用する視点を持つことが、人手不足時代の「攻めの文書管理」につながっていく。
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文書保管外注が経営戦略になる理由
――多くの企業が文書保管をアウトソーシングに取り組んでいる背景には、どのような事情があるんでしょうか?
前田:書類の外部保管・管理のサービスは以前からありましたが、コロナ禍が契機となって高いニーズが続いています。オフィス面積を縮小した会社が急増し、コロナ禍が落ち着いた今も在宅勤務の社員ありきの会社は、当然ながら書類などの荷物も置く場所もないため、外部保管サービスを利用することが一般化しつつあるのかなと。
――オフィス回帰の流れが指摘される中でも、外部保管ニーズは衰えていないのでしょうか。
前田:とくに東京・大阪といったオフィステナントの賃料が高い都市部の会社にとっては、大きな外部保管のメリットがあります。社内にキャビネットを置く分の賃料を払うなら、社員同士のコミュニケーションスペースに使うなど、福利厚生のような用途で活用していく傾向もありますね。
――電子帳簿保存法などによるペーパーレス化が社会的に推進されてきた中で、書類の外部保管のニーズが高まっているのは少し意外な感覚もありますが。
前田:入社手続きや経費精算、契約もクラウドサービスで管理しているので、最近起業した企業ほど紙は少ないのは確かです。ただ、電子も含めた場合の全体の文書の量と質とはあまり関係なく、会社の成長度合いによって変わります。
会社が急成長していれば取引量が増え、処理する文書の量も増えますし、一旦増えたものはなかなか減りにくい。その意味では外部の倉庫を活用した保管・管理によって、重要文書の急激な増減にも対応しやすくなるという点も大きなポイントです。
人手不足時代に“社内完結”は限界?
前田:私自身は経理出身なんですが、書類が詰まった段ボールってめちゃくちゃ重たくて、取り扱いの物理的な負担も大きいんですよね。会社の引越しやレイアウト変更するときは、最初から外部倉庫で管理していれば、その作業が丸々なくなるわけなので、わかりやすく業務負荷軽減に繋がります。
――文書の保管・管理に関しては管理工数によって発生する人件費、オフィススペースが見落とされがちなコストとして発生していると思うんですが、企業の経営層の意識に変化は感じていますか?
前田:そもそも書類管理に限らず、いま企業経営のあらゆる面で労働人口の減少の影響下にあり、今までのような社内での書類管理は、現実不可能な状況になりつつあるんですよね。とくに大企業などは、これまでは離職者が出ても求人をかければ社員がすぐに補充できるという想定で書類管理を社内ルール化していました。しかし現在はわかりやすく言うと、たとえ人気企業でも2人辞めても1人しか補充できず、残りのメンバーにその分負担がかかるという状況も増えてきています。また、人材の流動化で職場の中で常に誰かが辞め、誰かが中途入社する、という繰り返しが恒常化し、引き継ぎそのものの労力も今の時代は相当なものになっています。
――人手不足と人材の流動化が進む中で、従来の“社内完結型”の書類管理は限界に近づいているという状況に対し、企業はどのような打ち手を取るべきなのですか。
前田:次々と社員が転職し、思うように人員も補充できないという問題を解決する最も有効な手段のひとつが外部の業者や人材の活用です。重要書類の外部保管サービスによって仕組み化できていれば、社員が中短期的に入れ替わっても引き継ぎの作業の負担は大幅に軽減されますし、外注化によって中途採用した社員がすぐに適応しやすくなります。
――ひと昔前は営業職などのほうが活発に転職市場で動いていた印象もあるんですが、総務・経理・法務のようなバックオフィス系の職種でも流動化が進んでいるんですね。
前田:少なくとも営業と同じようなレベルで転職が活発化している感覚はありますね。そもそも本来はバックオフィスのほうが、会社ごとの業務に違いが少ないので、実務経験が活きやすくて転職しやすいんです。ただ、これまでは転職しても給料にそこまで差がなく、ノルマなどがないので営業より、慣れた会社に留まり続けていたんですが、最近は労働条件に差が生まれてきたことで、より良い給与待遇や業務環境へのポジティブ転職が目立っています。いきなり社員が辞めた時に一番困ることのひとつが引き継ぎですが、書類管理も例外ではないということですね。
文書管理はコストか資産か
前田:大企業でも人材の確保が難しい時代なので、正社員が書類管理だけで疲弊することは企業経営にとっても得策ではない。積極的に外部化し、正社員が辞めるたびに大騒ぎして引き継ぎの負担がなるべく発生しない体制を構築する必要性が増しているんです。
――その延長線上に外部保管だけでなく、書類の電子化などもあるのでしょうか。
前田:電子化と文書の管理・保管の外部化。それぞれに違う利点と共通する利点があって、属人化のリスクを解消するために最も効果的な方法のひとつがデジタル化です。たとえば紙の契約書の場合、原本を閲覧したいのに、保管されているキャビネットの鍵を持つベテラン担当者の機嫌が悪い時は頼みにくい、ということも現実には起こるわけですが、データ化されていれば自宅からパスワードを入れれば閲覧できるようになる、というわけです。
――なるほど……。
前田:情報管理においても隙がない体制づくりや信頼できる外注に依頼する仕組みは、社内不正の防止の一環になります。社内の機密文書などに関しても同じことで、「外注は信用できない」「外部より自社の社員が信頼できる」という経営者も未だに多いんですが、これだけ人材が流動化している時代となると、この価値観は逆転しつつあるんです。
――外注を活用することが、むしろリスク対策になるならば、情報管理のあり方そのものも見直す必要があるかもしれません。
前田:書類には会社や事業の行動履歴が残っているわけですが、それをAIに取り込めば一瞬で分類や分析ができ、情報資産として活用しやすくなります。わざわざ人間の目で確認していくのは、非効率的すぎる。アナログで管理されている文書を電子化することは、情報量自体を圧縮することにつながるんです。
――単に電子化してリモートで閲覧できるようになる以上のメリットを享受できる可能性もあるわけですね。
前田:大企業や老舗企業ほど、そうした情報資産が埋もれているわけで、単純に紙を電子化して終わりではなく、効率的な書類管理を実現することで新たな売り上げを生み出していく。それが攻めの文書管理の理想的な姿だと思います。
前田 康二郎 (まえだ こうじろう)
流創株式会社代表取締役。1973年生まれ。学習院大学経済学部経営学科卒業後、エイベックスなど数社で管理業務全般に従事。サニーサイドアップでは経理部長として株式上場を達成。その後、中国・深センでの駐在業務の後、独立。 現在は利益改善、コンプライアンス改善、社風改善の社員研修、コンサルティング、講演、執筆活動などを行っている。著書に『メンターになる人、老害になる人。』(クロスメディア・パブリッシング)、『社長になる人のための経理とお金のキホン』(日本経済新聞出版)など。 PODCAST番組「THE VENTURE」パーソナリティ。東武デリバリーでは、文書管理に関するコンサルティングから、文書の保管(ダンボール1箱からの可能)、電子化及び検索、保存期限の過ぎた機密文書の溶解処理までワンストップでオーダー可能です。